
主要な業績の説明
江崎は固体物理学、なかでも半導体の実験的な研究
によって新しい分野を切り開いた。1940年代後半、ショックレーらによってトランジス
タが発明され、半導体は一躍脚光をあびるようになった。江崎は、50年代前半から半導
体の研究に着手、理論的に予想されていたが、まだ実証されていなかったトンネル効果
を1957年、実験によって発見、トンネル・ダイオードの開発につなげた。IBMに移ってか
らも半導体の実験的研究は続けられ、異種半導体の原子の薄層を交互に積み重ねて格子状
の結晶(「人工超格子」と呼ぶ)にした新材料が、特異な現象を示すことを見いだした。この
半導体超格子は光通信の半導体受光素子などに応用されている。これらの研究は、ソニー、
あるいはIBMという理想的な研究環境の中で生みだされた独創的な成果である。
●トンネル効果の発見と応用
1950年代前半、半導体の研究は物理学者の注目を集めつつあった。すでに真空管に取って代わるトランジスタは発明
されていたが、より小さくて、より速くはたらく電子素子の開発が求められてもいた。1923年、ド・ブロイが電子の
ような物質粒子は、粒子性と波動性の二つの性質をもつことを理論的に提唱したときから、量子力学的なトンネル効
果の存在は理論的に予想された。トンネル効果とは、電子のような小さな粒子が、あたかもボールが壁を通り抜ける
ような振舞いをすることだが、1950年代半ばを過ぎても実験での実証はされていなかった。江崎は、ゲルマニウムに
不純物としてインジウム(p型)、アンチモン(n型)を極微量まぜてつくる半導体で実験をしていた。しかしデー
タがばらつき、研究ははかどらなかった。57年夏、不純物のリンの濃度が従来よりも非常に多い場合に、予想に反し
て電圧を高めると電気抵抗が減って電流が増える「負性抵抗」という現象が現れることを発見、それがトンネル効果
によるものであることを見いだした。これからpn接合型のトンネル・ダイオード(エサキ・ダイオード)を開発し
た。これは高い周波数での回路素子に利用できるものだった。コンピュータ小型化時代の基礎を築く役割を果たし、
トンネル効果の理論的研究で理論物理学にも貢献した。
(写真:トンネル・ダイオード。ソニー提供)
●人工超格子結晶概念の創出と実現
1969年、江崎はある半導体の原子の層を何枚か重ねた結晶薄膜(A)と、別の半導体の原子
の層を何枚か重ねた結晶薄膜(B)とを、交互に多数積み重ねた半導体人工結晶(「半導体超格子」と呼ぶ)をつくると、均質な結晶薄膜とは大幅に異なる、特異な物性現象を示すであろう、
と予言した。その後、自ら超高真空中で特殊な分子線技術をつかって半導体超格子を作製、
予言どおりの現象が現れることを1972年に確認した。
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