主要な業績の説明
●理論化学の分野での業績
 19世紀末、ドイツを中心に、自然現象をエネルギーの形態変化で説明しようとする立場が現れた。この立場は、原子・分子を「仮」の存在と受け止める。この立場の急先鋒オストワルトに、池田は留学前から大きな影響を受けていた。彼は、熱力学(自由エネルギー)の考えを使って化学反応の説明を試みた。のちに「物理化学」という名で呼ばれる分野だが、当初はまず「化学」に「物理学」の考えを導入することの意義から説明しなければならなかった。池田が扱った物理化学的なテーマとしては、浸透圧・化学反応の速度・沸点・溶液中での液相と固相の平衡状態などがある。また、オストワルトの下で知り合ったブレジッヒ(Bredig)とは触媒に関する研究を行い、桜井錠二とは国際原子量委員会へ「酸素16を原子量の基準とすること」を共同提案している。

●応用化学の分野での業績

 池田の関心は、やがて応用化学へと傾いていく。この面での活躍は多岐にわたるが、まず池田は、当時知られていた4味覚(甘・酸・塩辛・苦)の他に、昆布ダシで味わえる「うま味」なる味覚に着目した。「グルタミン酸」というアミノ酸はすでに知られており、それをなめて「不快」などと言う研究者がいた中、池田は昆布ダシが「グルタミン酸塩」を含むことと、「グルタミン酸塩」こそがうま味の正体であることを確かめたのである。そしてこのグルタミン酸塩を、小麦や大豆などの植物性蛋白質から抽出し、新調味料の製造方法を発明、特許を取得した(1908年)。のちの「味の素」の誕生である。その後の研究では、テンサイ糖廃液からもグルタミン酸を取り出した。さらに、製造過程で生じる分離液を使って、醤油の製造にも取り組む。この発案は受け継がれ、醤油が品薄になった昭和の初期に工業化され、アミノ酸醤油として売り出された。
 池田の取った特許は、このほかに、鉱煙を脱硫する装置、人工ボーキサイトの製造法、家庭用乾燥機の発明、「味の素」の大量生産上ネックであった塩酸による装置の腐食を回避するための耐酸塗料、などがある。
(写真:グルタミン酸塩製造第1号、発売はしていない。味の素提供)