主要な業績の説明
 タンパク質リン酸化酵素C「プロテインキナーゼC」(以下、「PKC」と略記)の発見とその機能の解析により、これまで知られた「サイクリックAMP」による情報伝達系とは異なる、新しい細胞内情報伝達系を解明し、この酵素が細胞の分化、増殖、がん化、さらに記憶に関係している可能性も示した。

●PKCの研究による細胞内情報伝達系の解明
 生命現象には細胞同士の連絡役である神経伝達物質、ホルモン、細胞増殖因子などが重要な役割を果たしている。これらの生理活性物質が目標となる細胞に到達した後、どのようなことが細胞内で起こり、情報が伝達されるかが、PKCにより明らかにされた。
 生理活性物質が細胞表面にある受容体に捉えられると、細胞膜のリン脂質が分解されて生じるジグリセリドという脂質に、細胞内のPKCが活性化される。すると、リン脂質の分解でできる別の物質によって増加したカルシウム・イオンとPKCが協調して、外部からの情報を増幅させるように働くことが明らかになった。

●PKCと細胞の分化、増殖、がん化の関係を示す
 発がん物質であるホルボールエステルが、PKCを活性化することによって、カルシウム・イオンと協調し、細胞分裂を起こさせることを明らかにし、PKCが細胞の分化、増殖、そしてがん化にも関係していることを示した。

●PKCの記憶との関係を示唆
 PKCは大脳の記憶の中枢とされる「海馬」に多く存在している。人間が記憶できるのは、同じ刺激でも1回目より2回目の方が増強されるためと考えられる。最初の刺激で細胞膜にある受容体などのタンパク質がPKCによってリン酸化され、2回目の刺激が伝わりやすくなるという仮説を示唆した。

エピソード
 西塚自身は、PKC発見当時には、この酵素が細胞膜に到達する情報を増幅させることに関与するとは「何も知りませんでした」という状態であったが、PKCの発見によって招待されたイギリスの学会で、「あなたの発見は、われわれが30、40年も追いつづけてきた、生体の情報伝達機構を解決するかもしれない」といわれて、人工のジグリセリドを生きた細胞に使って研究を進めたという。
 PKCの研究で毎年のようにノーベル賞候補と言われることについて次のように語っている。「ノーベル賞の発表が近づくたびに、マスコミに追い回されかなわないですね。そんなことより、日本の科学をどう支えていくのかに、もっと目を向けてほしい。そのためには、まず世界の最先端の動きを知ること。